最後の日曜日|Tangoの話であったり なかったり

最後の日曜日

2017年4月24日

 この週末は、9 de JulioとBragadoというブエノスアイレスの中心街から少し離れた小さな町で過ごしました。アルゼンチンの地図で見れば、ほんの1センチも離れていないのですが、それでもバスで5時間ほどかかります。運良く2階席の一番前に座れたので、行儀は悪いですが、脚を前に放り出し、地平線まで続く直線の道を、蟻の大群のような牛を横目に向かいました。

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 今回招待して下さった9 de Julioにあるアルマンドさんの家に到着すると、昼ごはんが用意されていました。牛肉のステーキとパンと米、豆料理とハム、サラダ。味付けはもちろん、アルゼンチン風です。以前は三日もすれば和食が恋しくなるほど日本の味にどっぷり浸かっていたはずなのに、今回は、気付けば肉を食べるときも醤油や柚子胡椒を使わなくなっており、スーツケースに入れて持ってきた山葵ふりかけにも手を出していません。むしろなぜこれまで、こんなに美味しいのにすぐ飽きていたのか不思議でなりません('-'*)

 アルマンドさんの家は、玄関を入ってすぐのところにある駐車場にピアノが二台置いてあり、リビング、キッチン、焼場やレモン畑のある庭へと続いていきます。その両脇にいくつか部屋があるのですが、一体何部屋あるのかわかりません。とにかく可愛らしいお家です。ちなみに、この家に限らず9 de Julioには雰囲気のある家が多く、日本で例えるなら軽井沢のような印象を受けました。

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 ビールを飲みながらランチを済ませ、街中をドライブして、帰ってきたら洗車。近所で暮す彼の兄妹の家に寄り、そのまま車で約一時間ほど離れた、アルマンドさんの彼女が暮らすBragadoまで移動。そこで一泊させて頂きました。彼女の家は、服と植物とアンティークの家具に囲まれた、まるで映画のセットのような家で、キッチンにはアサードの焼場まであります('-'*)

 夜の9時過ぎくらいでしょうか。10年ぶりに会う人たちが集まり出し、みんなで食事をし、「明日はアサードだ!」と言いながら12時過ぎに帰っていかれました。

 そして日曜日。朝の10時前からアルマンドさんは準備に取り掛かります。適度......とは言っても、とにかく大きく骨付き肉を切り、網に並べて隣で薪をくべていきます。やがて燃えカスとなって落っこちてきた灰を網の下に移し、じっくりゆっくり焼いていきます。途中、近所の人が代わる代わる家の中に入って来て、「今日はアサードパーティなんだ。いいねー!」という感じで焼き具合をみて帰っていくという光景を目にして、僕ならきっと、余計な気をまわしてしまうんだろうな......と反省しました。

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 火を燃やすのにドライヤーを使うというのは初めて見ました(笑)。そしてアルマンドさんの姿を見ていたら、夏の八ヶ岳のタンゴ合宿がとても楽しみになってきました('-'*)

 昨夜の人たちが再び集まり出したのが13時過ぎ。甲斐甲斐しく働いているアルマンドさんと彼女を尻目にワインを飲んだり前菜を食べたり......。僕らにも「まあいいから飲もうぜ!」とグラスにワインを注いでくれます。まったく手伝おうともせずタダ飯を食いに来ているようにも映るのですが、それを言ったら僕もそうなるわけで、こういうとき、自分の中の偽善な部分が嫌になります。「お前が本来するべきだったのは、ここで手伝うことではなくてスペイン語を学んできて、もっと会話を楽しむことだったんじゃないかのか?」と心の声が聞こえてきます。仰る通りでございます。

 特にこちらの人たちの会話は、言葉がわからないせいもあって、声がボールのように飛び交って、パスをまわしたりドリブルしたりシュートを打ったりしているように聞こえてきます。サッカーやタンゴが上手いのもよくわかります。ただ、言葉がわからない分、目や表情、声のトーンや仕草などなど、あらゆる角度から何を発しているのかキャッチしようと集中するので、言葉の奥にあるものは、よく見えます。僕は人生において、信じられる人と信じられない人の見極めさえ間違えなければ、ある程度の問題は解決できると思っておりますので、そういう意味ではいいトレーニングにもなっていたのですが、いつの間にかその能力に頼ってしまっていて、いい加減卒業しなければと思いました。

 4時間以上かけて焼き上げたアサードがテーブルに並べられると、席から一斉に拍手が起こりました。アサードを焼いた人には敬意を払ってそうするのだと、向かいの席のおじさんが教えてくれました。

 前回呼んで頂いたアサードパーティから今までに、僕に何があったのかなどをみんなに話しながら食事が終わったのは16時過ぎ。すっかり食べ過ぎて少し昼寝して、18時15分のバスに乗って帰ってきました。道中、寝つけないまま、少しは世の中に対して心が開けるようになってきたかなと思うこともあったのですが、所詮は砂浜から浅瀬に入ってちゃぷちゃぷしていただけなのだとわかって恥ずかしくなりました。また、みんなから優しさのシャワーを浴びすぎて、自然と涙が流れてました。

 日曜日の朝、本当は気にしなくてはならないこと、本当は気にしなくていいこと。時間、お金、人種、年齢、キャリア、言葉......あらゆる束縛から解放されて目が覚めたとき、「ここは天国なのか?」と思うほど、気持ちよく起きることができました。とても幸せな週末でした('-'*)

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