エネルギー|Tangoの話であったり なかったり(β版)

エネルギー

2019年8月28日

 僕はきっと、こういう世界で生きている人間にしては致命的なほど野心がなく、自己顕示欲も承認欲求もない。昔はもう少しあったような気もするのだけど、自分が持っているものでそれを欲してくれる人がいるなら有難い。しかしそのためには責任を果たせるだけの自分が必要で、僕が前を向いていられる根底にはいつもそこがあります。物欲も大してなく、モテたいという欲求もない。例えばミロンガで踊りに誘って断られても悔しいとかそんな感覚はなくて、悔しいと思う人はよほど自分に自信があるのだろうな......という感じ。

 言ってみれば僕は、僕を必要として下さる気持ちを糧に走る蒸気機関車のようなもの。しかしタンゴについては、いつか僕を必要としないで済む日が来るために教えているわけで、因果な仕事だと思います。

 去年の今頃は、アルゼンチンツアー直前で、現地のミロンガやレストランを調べたりタイムスケジュールを組んだり。みんなタンゴ歴も浅かったし、とにかく事故なく終えたい、今より深くタンゴのことを知ってもらいたいという気持ちで一杯でした。あれから一年が経とうという今、それぞれ自由にミロンガへ行ったりファンができたりして、ずいぶん逞しくなったなあと感じています。先々週の土曜日には約15年前、僕が初めて教えた生徒さんがLOCAに遊びに来てくれ、僕が知らない彼女と当時の彼女がごっちゃになって、だけどそれが本当にとても嬉しくて、因果な仕事の先の世界を少しだけ垣間見たような気分になりました。

 何ヶ月か前、ある生徒さんから、「先生にとっては、私は数いる中の生徒のひとりだけど、私にとって先生はたけしさんだけなんです」と言われて驚きました。そんなこと考えたこともなかったから。僕から見れば数ある先生の中からよく僕のところへ来てくれたという感謝しかなく、気障な言い方になりますが、だから全員、僕にとっては宝物。特にはじめたばかりの生徒さんには手を差し伸べてあげたいし、意欲のある生徒さんには応えたいと思う。それが、僕がこの世界で生きている原動力だから。リスクが高い場所でミロンガのオーガナイズなんて寿命が縮まりそうなことができるのも、「こんなところで綺麗に踊れるようになりたいな」、「タンゴやってて良かったな」と、もし思ってもらえたら嬉しいから。

 タンゴをはじめた頃からずっと、タンゴの小説が書きたくて、これまで数えきれないほど頭の中でストーリーは描いているものの、いつもオチが決められなくて、ひょっとして、僕が書くときは遺書のような作品になってしまうのではないだろうか? と思ってみたり。......いや、そうではない作品も書いてみたいものです(笑)