2019年の終わりに......|Tangoの話であったり なかったり

2019年の終わりに......

2019年12月31日

 タンゴに興味を持ちはじめたあやちゃんに、ならば出来るだけ早い段階で本場の雰囲気を感じてもらいたくてブエノスアイレスへ行ったのが一昨年の春。帰国後LOCAの場所に出会い、今年はとにかく今できることを一つひとつやっていこうというテーマで過ごしてきました。プレイリストのフォルダを見ると、昨年組んだセットが12なのに対して今年は倍の24。隔週雑誌の連載をしている感覚です。原稿を書いたあともそうなのですが、選曲についてもどれだけ納得した状態で仕上げてもミロンガが終わった途端に聴くのが恥ずかしくなるほど自己嫌悪に陥る僕が、昨年末のTodoroki TANGOで、はじめてミロンガが終わったあとも満足してしまいました。「しまいました」なんて言葉を使うとなんだか悪いことのように思われるかも知れませんが、その通りです。もうこれ以上バランスの取れたプレイリストは僕には作れないのではないかと思ってしまったのです。今年はいかにそれを超えるかがポイントで、しかしどれもダメな気がして、作っては消し、新たな曲を探しては聴き、そんなことを繰り返してばかりの一年でした。

 僕は基本的に「DJ」とは名乗らないようにしています。というのも、僕のイメージするDJとは、ブースに張り付いてフロアの状況を見ながらリアルタイムで曲を変えていける人のことで、踊ったりその他雑用もこなしたりする僕には名乗る資格がないと思っているからです。しかしそんな僕にも、回を重ねるごとに選曲が好きだと言って下さるかたが増えてきて、期待を裏切りたくないという気持ちと、昨年末のTodoroki TANGOのプレイリストを越えられない焦り。その一方でミロンガを開催させて頂ける機会は増えていき、楽しんでいたはずの選曲が義務のように思えてきた時期もありました。常々それだけはしちゃいけないと思っているので、そう感じるときは作業をやめて気分が乗るまで待つようにして、なんとか乗り越えることができました。

 また、今年は怪我との闘いの一年でもありました。もともと脚に爆弾を抱えてはいるのですが、ひどいときは立ち上がるのも困難で、いつまで教えることができるだろう? と考える日が増え、なるべく居心地がいい空間を作ろうという思いから、自分を必要として下さるかたに応えようという意識が強くなりました。なので生徒さんにも、「どこかに居心地がいいと感じる場所を見つけたら、自分の居場所は他人に頼らず死守しなさい」、レッスンの回数が少なくて周りの成長に追いつけないと心配しているひとには、「他人と比較したら不幸になる。時間がかかってもいいから、理想とする踊り方に対して自分がどれだけアプローチできているかだけを気にしなさい。少なくても僕はちゃんと見ているから」と話し、不平等に受け取られようともそのうえで向かってくるエネルギーを優先にするようになりました。若い人やビギナーさんでも安心して楽しめるようにクローズドのミロンガを今年の夏からはじめたわけですが、そのせいでよく、「結局たけしさんは若いひとが好きなのね」と言われる機会が増えました。「若い人限定」とは書いておらず、「若い人やビギナーさん」なんですけどね。そもそも若い人にもビギナーさんにも定義を設けてはなく、そこを決めるのは僕じゃなくて本人だと思っています。僕だって立場を気にせず書かせてもらえれば、自分のことをビギナーだと思っています。要は、できることは限られていますが前を向いている人を応援したいというのが僕の根底にはあるのです。あとは、例えば誰か友人にタンゴの魅力を伝えたいと思ったとき、このミロンガは胸を張って大丈夫と言いきれるだろうか? という部分を企画の基準にしています。レッスンも同様です。タンゴをはじめるにおいて、最初何より大事なのは「誰と踊ったか」「どこで踊ったか」だと考えていて、その責任を背負う覚悟だけはしているつもりです。そしてもうひとつ。ミロンガでは基本的に男性から女性を誘うのがマナーとされていますが、僕については気にして頂かなくて結構です。一回のミロンガで流れるタンダの数って意外と少なく、全員の女性と踊ることは難しい。ならば主催者として僕と踊ってみたいと思って頂ける女性にその時間を使いたいという気持ちがあるからです。逆に僕は、声がかからないということは、それほど踊りたいと思っているわけではないんだろうなと受け止めています。図々しいかな? なんて思う必要はありませんからね('-'*)

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 僕は、タンゴとは野暮の真逆にあるものだと考えています。なのでタンゴについて話すことを本当は避けて通りたいのですが、それでも必要なときがあるということも今年学びました。早い話が悩みっ放しの一年だったということです(笑)。このような僕に付いてきてくれる生徒さんたち、会場まで足を運んで下さる皆様に心から感謝しています。どうか良い年をお迎え下さい。